haiku・つれづれ

「俳句紀行」バックナンバーはこちら


haiku・つれづれ - 第7回

宮下惠美子

2020年に45周年を迎えた米国カリフォルニア州の有季定型俳句協会(YTHS:https://www.facebook.com/yukiteikei/)の同人パトリシア・J・マックミラーさんに、2020年12月15日にお話を伺いました。クリスティン・スターンさんがZoomを使ったインタビュー、そして画像の編集を手伝って下さいました。

左からChristine Sternさん、Patricia J. Machmillerさん、宮下惠美子 at Zoom!
左からChristine Sternさん、Patricia J. Machmillerさん、宮下惠美子 at Zoom!

宮下: 海外の俳句協会の中でも、日本俳句の伝統である季語と5-7-5の定型を母国語(英語)の俳句に取り入れているという点で、有季定型俳句協会(Yuki Teikei Haiku Society)は大変ユニークな存在です。地元の季語の歳時記、『San Francisco Bay Area Nature Guide and Saijiki サンフランシスコ・ベイエリアの自然ガイドと歳時記』を10年の歳月をかけて出版し、また、5-7-5シラブルの定型の国際俳句コンテスト「Tokutomi Haiku Contest徳富賞」を毎年開催されています。45周年を迎えたYTHSのこと、また何が人々を惹きつけ、そこで俳句を作るようになるのか、その理由をお聞かせ下さい?

パトリシア: まず、最初に有馬先生のご逝去の報に際し、心よりお悔やみを申し上げます。有馬先生には2012年に当協会の俳句研修会へもご参加いただき、ご講演と句会をして頂きました。多くの会員が先生の素晴らしい教えを今も大切にしています。
有季定型俳句協会は、45年前の1975年7月に米国カリフォルニア州サンノゼ市の市立図書館で行われたオープンマイクで徳富清・喜代子夫妻が「毎月1回、土曜日に俳句を教える俳句グループを立ち上げます。」と呼び掛けたことに始まります。

バイリンガルの徳富夫妻は、伝統俳句の力を信じ、伝統俳句のやり方で英語の俳句を作る俳句グループを始めました。喜代子さんが英訳した日本の季語を入れた5-7-5シラブルの3行で書く英語の定型俳句です。皆で吟行に出かけては俳句を作りました。清さんは当初より「地元の季語を見つける。」ことを提唱され、春になると至る所で明るい黄金の花を咲かせるカリフォルニアポピーがその第1号として会誌に載りました。

カリフォルニアポピー
カリフォルニアポピー(©Simone - stock.adobe.com )

1997年から刊行されている協会紙「Geppo月報」(現在は年4回発行)は句会の役割も果たします。会員が投句する無記名の作品群から選句をし、その集計を次号に載せる仕組みになっており、これにより会員の選句眼が養われます。会員相互だけではなく「同人コーナー」があり、私の他に宮下惠美子さん(同じく同人だった故ジェリー・ボールさんの指名により2014年6月より担当)、それに毎回会員から1人のゲストを迎えて3人の選評が載り、同人のコメントから多くを学ぶことが出来ます。また毎号に季語を紹介するコラムを載せ季語の背景や例句を挙げて理解を深めた上で次号に投句するなど、広域に会員が点在する協会の会員の研鑽と相互交流に「月報」が果たす役割は大きく、活動の主軸となっています。

言語が異なる日本語と英語では、定型の捉え方も違ってきます。英語の詩ではシラブル数でも形を整えることは出来ますが、それよりもアクセント(強勢)によって生まれる音楽的なリズムを活かす方法が伝統的に主流でした。ですから、協会には5-7-5シラブルの定型ばかりではなく、リズムを重視した他の形で作句する人たちもいます。4-6-4や2-3-2シラブルの詩型、2-3-2アクセントの詩型、自由律、1行詩などがあり、それぞれの詩型ごとに受ける印象が異なります。バランスの取れた優雅な5-7-5の詩型で作られた英語俳句は哲学的あるいは瞑想的な要素を感じさせ、より伝統的な印象を与えるのです。

何が人々を惹きつけるかについてですが、伝統的な俳句に興味があり、原点である日本俳句の歴史や作品(古典も現代も含めて)を学びたいと思う人々が有季定型俳句協会にやって来ます。一人一人の作家を大切にする協会ですので、ここで日本の俳句の形や名句(翻訳)と出会い、それらを自分の作句方法に活かしながら、それぞれの俳句道を深める為に協会に留まる方が多いのです。

宮下: パトリシアさんの最新の本、『Zigzag of the Dragonfly --Writing the Haiku Way蜻蛉のジグザグ飛行―俳句を作る』は、俳句を志す人たち、或いは俳句の上達を願う人たちにとってはバイブルのような本だと思います。「散歩へ行く」、「粘土を作る」、「粘土を成形する」、「季語-俳人の秘密兵器」、「二物衝撃」、「内なる批評家を育てる」、「名句を読む」等の章に分かれたこの本の核心、或いは秘密を教えて下さい。

パトリシア: この本は長年にわたって俳句を教えてきた経験から生まれました。当初は講義を先に句作を後にするスタイルを長年続けていましたが、ある時に、実際に作ってから講義をした方がずっと効果的であると気付いたのです。

この本では、まず体験をすること、単語から連想で次々と言葉が出てくるように訓練し、散歩で出会ったことを言葉で書き留めることから始めています。集まった言葉は、彫塑家が作品を作る粘土のようなものです。この粘土を捏ねて作品を練り上げます。二物衝撃、アクセントやシラブルの使い方等を学び、形が整ったところで、「季語」という1語の中に季感とその背景を強く喚起する言葉があることを教えます。季語は「俳人の秘密の武器」なのです。西洋の詩には季語はありませんが、同じような働きをする言葉は存在しています。例えば、クリスマスがいい例でしょう。その季節感と様々な背景がこの1語から見えてきます。

季語を入れた句を作ったら、「あなたの中の批評家を訓練する」という章へ進み、ここでは、古典や現代の著名な作家の作品を参考にして自作を見直すことを学習します。このような過程を踏んで俳句が上達していきます。俳句は、身の周りに起こる事象の一つ一つが素晴らしいということを教えてくれます。その素晴らしさに気づくことで、作品の向上だけではなく、生き方そのものがより深められると言って良いでしょう。

コロナ禍にあっても、俳句のお陰で創造をする喜びが味わえて毎日が充実しています。会員のジョアンさんから「蕪村に倣って毎日10句を100日間作ることにしたので、一緒にやりませんか?」と誘われ、3月から始めたのですが、長引くコロナの中、既に160日以上も続けています。

パトリシアさん
パトリシアさん

宮下: パトリシアさんはHIAの『HI誌』に頻繁に登場する作家でもあります。最新の『HI149号』の作品の背景について、またご自身の俳句人生についてもお聞かせ下さい。

パトリシア: この作品は、3年程前に交通事故に遭い5か月程首を固定する治療を受けていた時のことを詠んだ句です。小雨の降る冬の日でしたが、俳人仲間が車椅子の私をフィロリ・ヒストリック・ハウスガーデンへ連れ出して呉れました。全面に大きな窓が開いた建物の中は今にも咲き出しそうなクロッカスや種々の緑の植物で溢れており、窓からは時折冬の日光が差し込んで来ました。車椅子の私をガーデンハウスの中に残し、皆は庭園の吟行に出て行きました。室内に溢れる植物の息吹に包まれた幸福な時間とその香りを今でもはっきりと思い出すことが出来ます。その時の事を詠んだのがこの句です。句では温室としてあります。

soft winter light—
a deep serenity falls
on the green house Patricia
やわらかな冬の日差し
深い静けさが訪れる
この温室に パトリシア

1975年7月、当時、35歳のフルタイムで働く2児の母親だった私は、それだけではない何かを模索していました。徳富夫妻の呼びかけに出会い、私の「俳句人生」は始まりました。俳句グループへの参加を決めたのは月1回の土曜日ということで、既に多忙を極めていた私には好都合だったからですが、直ぐに俳句はそれ以上のものだと気付きました。徳富清さんは結核に苦しみ聴覚を失った後でも、喜代子さんと共に常に前向きに生きておられました。俳句はありのままにこの世界を肯定します。どんな小さなことでも句になるのです。私たちの役割は、その一瞬一瞬を書き留めること、そして地球と私達自身の双方にとって心地良い在り方で、この世界を生きていくことに他なりません。

宮下: 有難うございました。