haiku・つれづれ
haiku・つれづれ - 第32回
インドからのスナップショット
ギータンジャリ・ラージャン(チェンナイ、インド)・宮下惠美子
インドの大都会俳句
自然に囲まれるていると、俳句が出来やすいと感じます。自然がもたらす心理状態と、句材の豊富さによるのかも知れません。では、自然環境から隔離された大都市ではどうでしょうか?インドのいくつかの大都市には緑地や公園などの広々とした場所がありますが、他の多くの街では見かけません。都市の慌ただしい生活の中で、俳人たちはどこで俳句のインスピレーションを得ているのでしょう?何を俳句の主題にしているのでしょう?今回はインドの大都市で詠まれた俳句をご紹介したいと思います。
most expensive high rise
the moon Rohini Gupta, Mumbai
(Where Rivers Meet)
高価な超高層ビルの後ろに
満月 ロヒニ・グプタ
写真:ギータンジャリ・ラージャン
a million stars
switch on Raamesh Gowri Raghavan, Mumbai
(Whispers – Karen O'Leary's Blog)
百万の星々が
灯る ラーメシュ・ガウリ・ラガバン
I begin the commute
all anew Raamesh Gowri Raghavan, Mumbai
(https://www.joaoroqueliteraryjournal.com/poetry/2019/6/29/three-haibun-the-bus-to-nuwara-eliya)
いつもの通勤が
すっかり新たに ラーメシュ・ガウリ・ラガバン
ロヒニ・グプタさんとラーメシュ・ガウリ・ラガバンさんは金融の中心であるインド最大の都市ムンバイ(人口1840万人)に住んでいます。高層ビルが立ち並び、交通量も多く、混雑した電車やタクシーでの毎日の長時間の通勤を強いられる大都会です。お二人とも、大都会の暮らしから見えてくる真実を詠んでいます。通勤の退屈さやコンクリートジャングルという環境の中で観察された自然が一句の中でよいコントラストを生み出しています。
ブリジェーシュ・ラージさんはムンバイ在住の獣医ですが、彼もまた日々の生活の中からたくさんのインスピレーションを得ています。これは彼が通勤の途中で得た俳句です。
a myna chirrups
at the sprinklers Dr. Brijesh Raj, Mumbai
椋鳥が囀る
スプリンクラーで ブリジェーシュ・ラージ
写真:マヌ・モーハン(pexels.com)
K・ラメーシュさんは、南インドの大都市であるチェンナイ(人口900万人)に住んでいます。チェンナイはベンガル湾に面した海岸沿いに位置しています。毎年夏はかなり暑くなりますが、チェンナイでは夕方になると涼しい海風が吹いていきます。バルコニーから見える美しい赤い月やそよ風なども句材になりました。
a full red moon
between the apartments K. Ramesh, Chennai
(a small tree of tender leaves, 2020)
赤い満月が
アパートの間に K・ラメーシュ
so many mouths open
for the puffed rice K. Ramesh, Chennai
(a small tree of tender leaves, 2020)
数多の口が開く
ポン菓子に K・ラメーシュ
チェンナイには多くの寺院があり、市内のあちこちに寺院の営みを支える池があります。大きな寺院には池があり、かつては、寺院に入る前に信者たちがここで沐浴をして身を浄めていました。また、御神体を池に入れたり、池の周りを巡ったりするお祭りや年中行事が多くの寺院で行われています。
ヴィディヤ・S・ヴェンカトラマニーさんは自宅の近くの公園や自分の庭を散歩します。普段は混雑している公園で見つけた静かな瞬間をこのフォト俳句は捉えています。
写真と俳句:ヴィディヤ・S・ヴェンカトラマニー
カフェハイク、2020年
蜥蜴が日を浴びている
ベンチの上で ヴィディヤ・S・ヴェンカトラマニー

続くこの道沿い
ずっと夏のまま ヴィディヤ・S・ヴェンカトラマニー
アーメダバード(人口635万人)に住むミナル・サロシャさんは、道路の交通の流れを観察しながら、都市の中の静かなひとときを見逃しません。
the yellow hoods of rickshaws
moving fast Minal Sarosh, Ahmedabad
(Enchanted Garden Haiku Journal, Issue 4)
リクシャーの黄色いほろが
速度を上げる ミナル・サロシャ
the crow and the statue
sharing time Minal Sarosh, Ahmedabad
(Poetry Pea Podcast, S4E16)
鴉と銅像が
時を共有している ミナル・サロシャ
これらの俳句からは、速いペースの日常生活や仕事の重圧、そして都会のごちゃごちゃした、またしばしば汚染された環境にもかかわらず、目を向ければ、句材はどこにでもあるということが分かります。よく見て、感じることでインスピレーションと静かなひとときが得られます。私は、人為的に整えられた環境、物、生活様式の中で、自然の要素がどのように一句の中に位置づけられるのか、大変興味がありました。多くの作品では季節を明らかにしていない一方で、その焦点は自然に当てられていました。日本国外の英語の俳句のジャンルでは季節よりも自然を一句に含ませることに留意します。また、季節の変化が日本のようにはっきりした区別がないことも有り、これは予測できることでした。
私自身の幸運は、オウムやアジアのコーエル(Asian Koel)などの鳥がマンゴの木でストライプのインドリスと一緒に遊ぶ古い庭に恵まれていることです。
イラスト:ダーティリ・ヴェングナド
many songs
from the Asian Koel Geethanjali Rajan, Chennai
(Icebox – August 2022)
いくつもの歌が
コーエル鳥の ギータンジャリ・ラージャン
都市化が進み、オープンスペースが減っています。でも、幸いにも、緑地や公園を求める声がインドでは日増しに増えて来ています。俳人や詩人たち、一緒に声を大にして都市に自然を!
ギータンジャリ・ラージャンと宮下惠美子
俳句和訳:宮下惠美子
ギータンジャリ・ラージャン南インドケララ州出身。チェンナイ在住。英語教師・海外日本語教師。俳句との出会いは2003年ごろ。オンラインジャーナル「cattails」の英俳句編集者。日本についての勉強が大好き。2021年ブータンのSonam Chhoki氏と一緒に俳諧共同歌の電子ブック「Unexpected Gift」出版。2023年に英俳句の本「longing for sun longing for rain」出版。
